大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和51年(う)424号 判決 1978年9月20日

控訴人 被告人

被告人 小山邦男 外二名

弁護人 鈴木一郎 外一一名

検察官 斉藤吾郎 外一名

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告人三名の連帯負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人鈴木一郎、同高橋耕、同岩本洋一、同山崎俊彦、同近藤俊昭、同鈴木武志、同古田修、同丸井英弘、同田村公一、同三上宏明、同佐藤博史、同芳永克彦の連名で提出した控訴趣意書及び同訂正書に、これに対する答弁は、検察官瓜島喜一郎の提出した答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

第一訴訟手続の法令違反の主張について

一、所論は、原審第六回公判期日における裁判所の構成が変つたことによる公判手続の更新は、同第五回公判期日の公判調書が速記録部分が作成されていたのみで手続部分は完成されていなかつたのに、弁護人の異議を無視してその手続を進めたもので違法である、というのである。しかし、刑訴法、刑訴規則はいずれも、公判手続の更新に当り、それ以前の公判期日の訴訟手続についての公判調書が完成していることを要件としておらず、却つて刑訴法四八条三項は、公判調書が各公判期日後速かに、遅くとも判決を宣告するまでにこれを整理すべきことを定め、また同法五〇条一項は、公判調書が次回の公判期日までに整理されなかつたときは、裁判所書記官は訴訟関係人の請求があれば、次回の公判期日又はその期日までに前回の公判期日における証人の供述の要旨を告げなければならないと規定するに止るのであつて、このことは、連日継続して審理することを原則とする刑事訴訟の要請や当事者の口頭による弁論を聴取し、更新前に取調べた証拠を直接取調べることを主たる目的とする更新手続の本質に照しても当然のことであるから、所論は失当であり、右更新手続により取り調べられた各証人の原審第四、五回公判調書中の供述記載部分、司法警察員作成の捜索差押調書謄本等の証拠書類はいずれも適法な証拠調を経たものというべきである。

二、所論は、要するに、本件は昭和四九年二月四日早朝、原判決の判示する東京都杉並区高円寺南四丁目二九番六号所在の杉並革新連盟事務所に対してなされた、同年一月二四日に発生した「東大生殺人事件」を被疑事実とする捜索に際し、偶々右事務所に居合わせた者全員を兇器準備集合罪の現行犯として逮捕した事案であるところ、この逮捕は、警察当局が当時右殺人事件の捜査が進展しないことから、犯人割出しのための取調をし、また同年二月七日に予定されていた、いわゆる狭山裁判集会を事前に規制することを目的として、事前の計画に従い、前進社等他三ケ所における捜索と所在者全員逮捕とを併せ行つた無差別な別件逮捕ないし治安取締のための弾圧であり、違法な手続であるから、右逮捕に際し作成された捜索差押調書等の証拠書類およびこれら証拠に基づいて行われた検証調書は、違法収集証拠として排除さるべきであるのに、これらを採用した原審の措置は違法である、というのである。

しかし、原審証人常盤学、同壺倉尚、同中村照市、同菊池兼吉の原審各公判調書中の供述記載部分及び司法警察員作成の捜索差押調書謄本によれば、昭和四九年二月四日午前六時四三分頃から杉並革新連盟事務所に対して行われた本件捜索差押は、同年一月二四日午前一一時五〇分頃同都世田谷区代田三丁目五五番一〇号アパート福荘付近路上で多数の者が鉄パイプ等を所持集合し同アパート内に侵入し二名の東大生を殴る等して殺害した兇器準備集合、建造物侵入、殺人被疑事件につき、渋谷簡易裁判所裁判官が同年二月二日その事実の嫌疑があるとし、また、その必要性があると認めて発した許可状に基づきなされたものであるところ、右事件については、発生の日の夕刻、所轄の北沢警察署に捜査本部が設けられて連日捜査会議が開かれる等捜査が進められ、同月末中核派発行の革共同通信の記事等から右捜査本部もこれを同派の犯行と断定し、同派と親密な関係にある杉並革新連盟事務所には同派の者多数が出入りし右事件に関する証拠物等も存在する疑いが濃くなつていたことが認められ、右事件の捜査上、同事務所に対する捜索差押の必要性は十分肯認することができ、またその執行の方法についても特段異とすべき事情はなかつたのであるから、右捜索差押許可状による捜索等の手続に違法があつたとは認められず、また捜査当局が同手続の執行に藉口し当初から右東大生殺人事件捜査のために無差別な逮捕を行い、あるいは狭山裁判集会の事前規制を図つた等右手続をその本来の手続以外に利用する目的で行つたと認むべき資料も全く存しないから、同手続を違法とし、同手続の下において作成された証拠の証拠能力を論難する所論は前提を欠き到底採用できない。

三、所論は、(一)、菊地信紀の検察官に対する昭和四九年二月二一日付、同月二四日付各供述調書及び同月一五日付、同月二二日付各供述調書の抄本の供述記載内容は、同人が証人として原審公判廷で供述した際、被告人らに対する反感を感じさせる程検察官側の意に添う供述をしたことに照し、その趣旨において右公判調書中の供述記載と実質的に相反する部分はなく、そのように見える部分も検察官の質問がそれに触れず、あるいは記憶喚起の方法が尽されなかつたためであり、また同人は検察官の取調に対し公判廷におけるよりも一そう迎向的であつたもので特信性もない。(二)、また、石垣隆の検察官に対する同年二月一九日付、同月二〇日付、同月二一日付各供述調書についても、その供述記載部分は同人の原審公判調書中の供述記載と実質的な相違点はなく、また、右各供述調書はいずれも入院中の母親に知られることをおそれ、検察官から巧妙に不起訴にすることをほのめかされて自白した任意性、特信性を欠くものである。従つて右各供述調書は刑訴法三二一条一項二号の要件に当らないのにこれを証拠として採用し原判決の証拠の標目に挙示した原審の措置は違法であるというのである。

しかし、(一)、原審証人菊地信紀の原審公判調書中の供述記載では、検察官の質問に対し、杉並革新連盟事務所等の防衛態勢が何時頃から、どのような理由で強化されたか、また昭和四八年一二月一五日八王子市民会館での中核派の集会において北小路敏の演説した内容は判然記憶しないから答えられない、昭和四九年一月頃の事務所の防衛班での話では革マルが同年二月七日の狭山裁判集会に襲つて来るかも知れないとの話があつたが事務所を襲うという話はなかつた、二月三日夜の防衛の任務につく際、班長から指示があつたがその内容は忘れた、何か最近の出来事とか警察の車が廻つているようだから注意して見張るようにという程度の話であつた旨供述して本件の重要な事項について証言を回避する態度が明らかであるところ、同証言によれば、検察官による取調に対し、それまでの中核派に同調する政治的運動から脱けようと決意し、進んで記憶のとおり供述したところを録取されたとする同人の右各検察官に対する供述調書では、右の各事項につき、昭和四八年九月二一日中核派が東京外語大の革マル派を襲撃し、中核派機関紙前進は「報復戦の第一弾」と高く評価したが同年一〇月二〇日池袋周辺その他の中核派アジトが核マル派に襲われ、これを機会に中核派は戦略を変え前進社、革新連盟等の事務所を単に拠点としての防衛のみならず、敵を誘い寄せ、敵が攻めて来るのを待つて捕捉し、攻撃し、徹底的にせん滅するための砦として構築することになり、同年一二月一五日の八王子での集会では、北小路は反革命革マル分子をせん滅しなければ我々の階級斗争は進展しない、そのためには手にバールを持つて革マルの頭にぶち込み、革マルを殺して殺して殺しまくれと激しい語調で演説した旨(前示二月二一日付供述調書)、事務所防衛班のリーダー等は二月七日の狭山裁判斗争について、革マルは絶対狭山斗争に介入してくる、それ以外に革マルは政治課題を持つていない、介入には、個人テロでも、前進社、連盟でも、会戦でも何でも仕掛けてくるだろうと語つていた旨(前示二月二二日付供述調書)、二月三日の午後一一時防衛任務(支社防と称していた)につく前、班のリーダー格の杉並警察署留置番号一四号の女性から指示(意志一致と称していた)があり、権力の車や革マルのレポがいる様なので警戒すること、連盟は前に一回襲われているが、革マルは今度は力を入れて襲撃して来ると思われる、こちらとしてもこれに対応して敵を断乎としてせん滅しなければならないという話があつた旨(前示二月一五日付、同月二四日付各供述調書)、本件当時の状況およびそれに至る経緯について、自然で具体的、詳細な供述をしていることが明らかであるから、右菊地の各供述調書の供述部分は原審公判期日における供述に対比し実質的に相違し、かつ信用すべき特別の情況があると認められ、これらを刑訴法三二一条一項二号により証拠として採用した原審の措置に違法はない。また、(二)、原審証人石垣隆の原審公判調書中の供述記載によれば、同人は検察官の質問に対し、杉並革新連盟事務所を革マル派の襲撃から防衛するため同所にいたとしながら、同事務所に行くようになつた時期や同所が中核派と関係があるのか、鉄パイプ等が何故同事務所にあつたのか判らないし、革マル派が襲つて来る等考えたこともなく、それに対処する仕度もしていない等、何度も同事務所に寝泊りし、防衛任務についた者としては著しく合理性を欠く、矛盾の多い回避的な供述をしているところ、同証言によれば精神病で入院している母に起訴されたことが知れては困ると思い、検察官からそのことを理由に自白を強要されあるいは自白と引き換えに不起訴にする等の約束をされたことはなかつたが、罪が軽くなることを希望して供述したところを録取されたことの明らかな同人の前記各検察官に対する供述調書においては、同人は昭和四八年九月か一〇月頃京王反戦のメンバーに杉並革新連盟事務所に連れて行かれたが、当時から被告人長谷川が中核派の北小路敏と共に運動をしていたことを知つていた革マル派との対立が激しくなり同事務所も革マル派から襲われることも予想し防衛態勢を強化するとともに、革マル派が襲つて来たときは逆にこれを迎え撃つために同年一一月頃からコーラー壜、コンクリート塊、鉄パイプ、竹竿が持ち込まれ、同年一二月頃見張りに行つた際事務所の責任者らしい人から革マルが攻めて来たときは先づ事務所に入れないようにし、入つて来れば一人ひとりやつゝけるというようなことを指示された旨(前示二月一九日付供述調書)、自分でも革マルの連中が鉄パイプ、竹やりなどを持つて攻めて来れば、その事務所の人達と一緒にコンクリート塊などを二階の窓から投げつけたり、また事務所の中まで入つて来れば鉄パイプなどで殴りつけたりして逆にやつてやろうと思い、二月三日の夜事務所に行つたときも同じ気持であつた旨(前示二月二〇日付供述調書)、同夜事務所に入つてすぐ一階四畳半の間ですね当をつけたが警察に捕るまで外さず、なお、玄関の見張りの時は靴もはいていた旨(前示二月二一日付供述調書)、当時の状況について、具体的かつ詳細な供述をしていることが認められ、右各供述調書の供述記載が、前示証言部分と相反し、しかも右各供述調書の供述記載を信用すべき特別の状況のあることが認められるから、右各供述調書を刑訴法三二一条一項二号によつて採用した原審の措置は相当であり、所論は採用できない。

四、所論は、司法警察員壺倉尚の作成した捜索差押調書は弁護人において証拠とすることに同意せず、刑訴法三二一条三項の検証調書に準ずべきものでもないのに、原審がこれを単に真正に作成されたことが立証されたというだけで証拠として採用したのは違法であり、また検察官が右調書と一体として請求した百瀬均作成の写真撮影報告書及び写真三一枚並びに司法警察員常盤学作成の捜索差押実施状況報告書と一体として請求した辺見武久作成の写真撮影報告書及び写真五七枚はいずれも独立した書面であるのに、原審がその作成の真正ないし事件との関係性を調べることなく採用したのは違法である、というのである。

しかし、原審証人壺倉尚、同常盤学の原審公判調書中の供述記載、前記捜索差押調書謄本、捜索差押実施状況報告書によれば、これら調書等は昭和四九年二月四日杉並革新連盟事務所について、前者は壺倉尚が捜索差押許可状に基づき、また後者は常盤学が右捜索差押の際現認した兇器準備集合罪の被疑事実により被告人らを現行犯人として逮捕した現場で、それぞれ行つた捜索差押の状況を明確にするため作成したものであり、同人らがその際いずれも補助者である百瀬均、辺見武久を指揮して写真を撮影させ、これを報告書として提出させて右調書、状況報告書にそれぞれ添付し契印して一体のものとしたことが認められるから、所論の各写真撮影報告書及び写真は独立の文書ではなく、右捜索差押調書と一体としてその内容をなすものと解すべきであり、また捜索差押調書は捜索差押を実施した者がその経過状況を実施後間もなく記載したもので、その記載方法、内容、目的から検証調書に準ずるものと解するのが相当であり、本件調書についても右証人壺倉尚の証言によつて真正に作成され、その謄本が提出されたことが明らかであるから、百瀬均作成の写真撮影報告書及び写真三一枚を添付した捜索差押調書謄本を刑訴法三二一条三項に従つて採用し、また、辺見武久作成の写真撮影報告書及び写真五七枚も前示捜索差押実施状況報告書と一体として同様採用した原審の措置に何ら違法はなく、所論は失当である。

五、所論は、(一)、原審構成裁判官の一人である坂井裁判官が原審相被告人の二度目の分離単独裁判を行つたことから忌避の原因が明らかになつたのに原審の審理判決から回避しなかつたのは刑訴規則一三条に違反する。(二)、原審の期日指定は性急に過ぎ公判調書が完成せず、これを閲覧できないまゝ次回期日に臨まざるを得ないこともあり、しかも弁護人申請の重要な証人の取調べを行わず終結を急ぐ等訴訟手続が刑訴規則一七八条の四に違反する、(三)、原審坂井裁判官は検察官側証人に援護的尋問を行ない、また裁判長は検察側証人に対する弁護人の反対尋問に際し尋問の意図等を釈明する等尋問妨害を行つた違法がある、(四)、原審は被告人や証人の人定質問を裁判所書記官に行わせた部分があり、刑訴規則一九六条に違反する、(五)、その他訴訟進行に関する弁護人の要望を公判調書に記載せず刑訴法四八条、同規則四四条一項に違反する等の訴訟手続の法令違反が繰返され、以上の積み重ねによつて誤つた判決に至つたものである、というのである。

しかし、本件記録を精査して検討すると、右(一)、については併合審理中の共犯事件の被告人を分離し審理判決したことがその余の共犯被告人の審判を行うことについて裁判官忌避の原因に当らないことは判例上確定された原則であつて坂井裁判官が回避の措置をとらなかつたのは当然のことであり、(本件第一回公判期日における忌避申立を簡易却下した決定に対する抗告申立を棄却した東京高等裁判所昭和四九年一二月二三日決定参照)、(二)、本件第一回公判期日は起訴後約九ケ月の余裕を置いて指定され刑訴規則一七八条の四に違反する事情は認められず、その後弁論の終結された第一五回公判期日まで一年一月を要し、平均一月に僅々一・一回の公判しか開廷されていないことに徴すると、公判期日の指定が性急に過ぎ、立証準備のために開廷間隔が不当に短い等ということはできないばかりでなく、弁護人が反証として申請した証人等もその立証趣旨に照せば、本件についての間接的立証であり、そのすべてを取調べる必要はなく、原審の採用した限度で足ると認められるから、その裁量は相当であり、(三)、原審裁判官の補充質問、裁判長の釈明についても、当該証人の公判調書中の供述記載に基づく訴訟関係人による質問応答の経緯に照すと、これらに対し特段の異議の申立もなされておらず、もともと何ら違法、不当とすべき事情は認められず、(四)、原審の被告人、証人に対するいわゆる人定質問が所論のように裁判所書記官によつて行われたとしても、刑訴規則一九六条は審理開始に先立つて出頭した被告人が人違いでないことを法廷の主宰者である裁判長において確めるべき旨を定めたもので、その方法としては、裁判長がそれを確めるに足る事項を問うことゝ規定されているものゝ、その事項が特に定められていないように、裁量の余地があり、裁判長が必要に応じて直ちに補足的な質問ができる状態の下でその指揮に従い裁判所書記官をして質問等の形式で問を発せしめ、人違いでないことを確めることを禁ずる趣旨のものと解すべきではなく、事件の性質、法廷の状況によつては、裁判長が静かに見守るなかで、裁判所書記官がその作業を進めることが法廷における手続の運営としてふさおしいことのあることをも考えると、右人定質問の方法は裁判長の訴訟指揮に委ねられた事項であり、裁判所書記官をしてこれを行わせることも許容されると解するのが相当であり、証人についても、その人定質問について規定する刑訴規則一一五条の文言上の表現は被告人に対する人定質問の場合と若干異つているにしても、その理は同様であるから原審裁判長が被告人ないし証人の人定質問について採つた措置に違法はない。(五)、その他原審公判調書の記載等について論難するところも公判調書の記載の正確性についての異議の申立のあつた形跡はないばかりでなく、その趣旨とするところは弁護側の要望を完全には採らなかつたというもので、採否の裁量の幅のある訴訟手続でそれを違法とすることはもとより、不当とすべきものでないことも明らかである。そして所論に照し本件訴訟手続の全体を調査しても違法とすべき点はないから、原審の訴訟手続の法令違反をいう所論はいずれも採用の限りでない。

第二法令の解釈適用の誤りとの主張について

所論は、迎撃形態の兇器準備集合罪について共同加害の目的があるというためには、その前提として襲撃の具体的可能性ないし襲撃の切迫性、蓋然性が事実として存在することが必要であると解すべきところ、原判決はその共同加害目的は、もともと行為者の主観に属することであり外界に存在する事実そのものとは関係のないことであるから、襲撃の蓋然性が事実として存在しなくても、行為者がそのおかれた具体的状況のもとで襲撃の蓋然性を認識していれば共同加害の目的を認定するに妨げはないと解し、本件に刑法二〇八条の二の一項を適用処断したのは法令の解釈適用を誤つた違法がある、というのである。

そこで検討すると、刑法二〇八条の二の一項にいわゆる兇器準備集合罪は多数の者による他人の生命、身体又は財産に対し加えられる危害を、兇器を準備する等して集合した、その予備的行為の段階で規制することによつて未然に防止しようとする法意のもので、同罪が一般の社会生活の平穏を侵害する公共危険罪的性格を併せもつとしても、主として殺傷犯、建造物・器物の損壊犯等の予備罪的性格を有することに照すと、同罪にいう共同加害の目的とは、集合した二人以上の者が共同実行の形で加害行為を実現しようとする意思と解されるところ、行為者(集合者)において、加害行為による結果の発生を積極的に意慾して行動する意思までも必要とするものではなく、加害行為による結果の発生を確定的に認識し、あるいはその発生の可能性のあることを認識してあえてその行為に出る意思があれば足り、また加害行為が相手方の行為その他の事情を条件とする場合は、その条件の成就すなわち、予想された事態が生じた時には加害行為に出ると決意することで足り(大阪高等裁判所昭和三九年八月一一日判決、下級裁判所刑事裁判例集六巻七・八号八一六頁、なお同高等裁判所昭和三九年四月一四日判決、高裁刑集一七巻二号二一九頁参照)、ただ、右の条件はもとより社会通念上通常発生が可能と認められるものでなければならないと解するのが相当であるから、行為者(集合者)において、相手方の襲撃を予想し、もし相手方から襲撃があつた場合にはあえてこれを迎え撃ち、積極的に殺傷等の加害行為に出る意思がある場合には、相手方による襲撃が、行為者の認識した事情を基礎とし、一般の社会人の見地から客観的に判断し、発生する具体的可能性ないし蓋然性があると認められる限り、本罪にいう共同加害の目的があるといわなければならない。所論は、右の共同加害の目的があるとするためには相手方による襲撃の蓋然性が客観的にも事実として存在することが必要である、というのである。しかし共同加害の目的は本来行為者の主観に属することであり、その目的(意思)を抱くに至る判断の基礎となる諸事情もすべて行為者の認識した事柄であるから、相手方を迎撃する形態の兇器準備集合罪にあつては、確かに共同加害の目的も客観性の要請される構成要件の一部をなし、従つて、それに関わる相手方による襲撃の予想は、架空の、あるいは漠然としたものではなく、通常の一般人から見てもその発生の具体的可能性あるいは蓋然性があるとされるものでなければならないとしても、それは行為者がその認識したことによつて自ら判断したところに従うのほかなく、それが被告人の認識した事情の下で一般人の見地からする評価と異なるときは錯誤の問題として共同加害の目的(意思)を認めえない場合も生ずると解せられ、以上の点から共同加害の目的が相手方の襲撃の蓋然性が事実として客観的に存在することにかゝるとする所論は採用できない。ところで原判決のこの点についての説示の趣旨は必ずしも明白ではないが、若し原判決が右の相手方による襲撃の蓋然性を行為者の主観のみによる判断に委ねる趣旨であるとすれば、それは誤りであるといわなければならない。しかし、本件においては後記のように行為者が襲撃の蓋然性について認識し判断したところは一般人の見地においても誤認はなかつたことは明らかであるから、結局、原判決には判決に影響を及ぼすべき法令の違反があつたとすることはできない。論旨は理由がない。

第三事実誤認の主張について

一、所論は、本件当夜、被告人らが杉並革新連盟事務所に泊り込んでいたのは、同事務所に対する違法な侵害から事務所の財産や同所で働く者達の生命、身体を防衛するための日常的な警備のためであつて、革マル派の者の襲撃の蓋然性もなかつたことでもあり、その襲撃を機に積極的に反撃する意思はなく、共同加害の目的はなかつたのに、原判決が被告人らにおいて革マル派の者の襲撃を予想して緊急事態に備え、その襲撃の際はこれを迎撃し、その生命身体に共同して危害を加える目的で屋外斗争まで予定し兇器を準備して集合した旨認定したのは重大な事実の誤認である、というのである。

そこで、本件記録を調査し、当審における事実取調の結果をも併せ検討すると、原判決の挙示する各証拠を総合すれば、被告人らはいずれもいわゆる中核派に所属するものであるが、

1. いわゆる中核派と革マル派とは、以前から対立抗争関係にあり、互いに他の構成員に対し内ゲバと称する殺傷行為を繰返し、昭和四八年後半だけでも、革マル派によるものとして七月及び一〇月の上池袋周辺の中核派アジト数個所に対する襲撃、九月の神奈川大学、日本橋三越屋上、国鉄鶯谷駅ホームでの中核派の者に対する襲撃があり、一二月一四日夕刻には東京都杉並区高円寺南四丁目二九番六号所在の杉並革新連盟事務所の近くの喫茶店で同事務所の代表である被告人長谷川英憲が革マル派の者から襲撃されて頭部等に重症を負い、同日夜には同事務所から一〇〇メートル位のところに革マル派の者約二〇名が鉄パイプなどを携え集合した事件があり、中核派によるものとしては、同年九月東京外語大学構内での革マル派の者に対する襲撃、一一月革マル派書記長池上洋司に対する襲撃事件が起り、昭和四九年一月二四日には革マル派東大生二名に対する襲撃殺人事件が発生するなど、両派の抗争は激化の一途をたどり、中核派においては昭和四八年一二月一五日八王子市の集会において、政治局員である北小路敏が反革命革マル分子をせん滅し徹底的に殺しまくれ等と激越な調子の演説をし、機関紙においても同旨の主張を掲載する等してあおり立て両派の対立はますます緊張・激化して行く状態にあつたこと、

2. 中核派活動の拠点である杉並革新連盟事務所では、右のような革マル派による襲撃、ことに被告人長谷川に対する襲撃等の事態に対処し、事務所建物の玄関扉を合板による二重扉にし、その窓を板や金網などで補強し、二階正面窓に事務所前面を照し出せるサーチライト一個及び北側及び南側道路方面を展望できるバツクミラー二個を取り付け、各室に通ずるインターホーンを設置し、玄関床には石塊の入つた茶箱を積み重ねて通路を狭くするとともにその茶箱を倒すことによつて閉鎖することもできるようにする等の備えをしたうえ、内部に多数の鉄パイプ、竹やり、鉄製特殊警棒、バール、空瓶、石塊等を蓄え、昼夜を分たず常に一〇ないし一五名位の青年が警戒に立ち、夜間は午後一一時から翌午前七時まで三交替で不寝番に立ち、非番の者も着衣のまま、すねあてやこてあてを身につけたまゝ就寝して緊急事態に備えていたこと、夜間の警戒に就く午後一一時頃には各班長から革マル派や中核派の動向、ことにその対立抗争に関する状況、当日特に注意を要する事項について指示説明があつて意思統一が図られ、なお、度々、革マル派が襲撃して来たときには直ちに近くにあるもので応戦するよう指示され、警戒に当る者は、右の襲撃に際しこれを迎え撃つ態勢をとつていたこと、

3. 本件当夜右事務所には、二階各室や廊下に鉄パイプ三九本、鉄棒七本、先端をといだ竹やり一七本、特殊警棒八本、バール三本、ヌンチヤク二対、空瓶、石塊、レンガ、コンクリート塊多数が配置され、二階物干場や屋根にも多数の拳大の石が本箱等に入れて置かれており、また、とくに前記菊地信紀の検察官に対する供述調書からも明らかなように、二月七日の狭山裁判斗争集会を前にして、事務所防衛関係のリーダーらは、革マルはそれ以外に政治的課題がないから必ず介入してくるが、方法を選ばないから事務所にも襲撃して来るかも知れないと語り、当夜も革マルは今度は力を入れて来るだろうから、こちらもそれに対応して断乎としてせん滅しなければならない旨指示があり、それまでより一段と緊張した状態にあつたこと、そして当日事務所の防衛に当つた者はもとよりその他の者も殆んどがすねあて及びこてあてをつけ、被告人ら三名もこれを装着していたこと、

4. 被告人長谷川は同事務所の代表者として、被告人小山、同山岸はともに前記事務所の防衛に当つて来た反戦青年委員会のメンバーとして、そのような防衛体制がとられるに至つた事情をも含めて前記諸事情を知悉していたと認められること、

以上の諸事実を認めることができるから、これら革マル派との抗争の状況、事務所内の構造、設備、準備された兇器の種類、配置の状況、襲撃に対応するための防衛態勢、配置の人員や部署、任務、意思統一の内容、事務所にいた者のすねあて等の装着状況、被告人らの事務所内での地位、経験等を総合すると、被告人らは、いずれも、杉並革新連盟事務所に対する革マル派による襲撃が近く実際にあるのではないかと予想し、革マル派が襲撃して来たときは、これを迎撃し、積極的に殺傷等の行為に出ようと決意して集合していたものと認められ、かつ被告人らがそのように予想したところは、前記のような対立抗争の下における革マル派の従前の襲撃の状況、狭山裁判集会についての両派の対応の仕方等をも併せ考慮すると、一般普通人から考えても当然同様の予想をしたと解せられるから、被告人らは右の襲撃して来る革マル派の者達の生命、身体等に対し共同して危害を加える目的をもつて集合していたことは明らかであり、その目的のない単なる日常的な警備の域を出ないとの所論は到底採用できない。なお、所論は原判決がその説示部分で被告人らに事務所外で斗争する意思があつた旨事実を誤認したと非難するのであるが、原判決を仔細に検討すれば、その当該部分は被告人らの準備した兇器がその形状、数量からみて弁護人の主張するような、単なる防衛のためのものと認められるような小型、軽量、少数のものではなく、屋外で多数人が斗争するためのものとみられるような危険度が高く、多量のものである旨兇器の性状を示したものと解するのが相当であり、所論は前提を欠き失当である。

二、所論は、原判決は多数の竹やり、鉄パイプ、鉄製特殊警棒、バール、石塊、コンクリート塊を兇器と認定したが、これら用法上の兇器の認定は、当該の物の置かれている客観的状況に行為者の主観的状況や加害行為の蓋然性などを考慮し、人の生命、身体に対する高度の切迫した現実的危険が客観的に存在する場合にのみこれを肯定すべきであるのに、本件では器具が存在し、人が室内に集合していたゞけで、対立する団体等の具体的存在もなかつたのであるから、前記各種器具の多くはその兇器性が否定されるべきであるのに、そのすべてに兇器性を認めた原判決には重大な事実の誤認があるというのである。

そこで検討すると、原判決の兇器として認定した物のうち竹やり、すべり止めの布を巻いた鉄パイプ、バール、鉄製特殊警棒はそれ自体社会通念上人を殺傷すべき性能を有する物として危険感を抱かせるに足る兇器と認められ、その余は用法によつては人の生命、身体または財産に害を加えるに足る器物であるところ、これをいわゆる用法上の兇器とするには、右のような性能の器物であることに加え、二人以上の者が他人の生命、身体または財産に害を加える目的をもつてこれを準備して集合するにおいては、社会通念上人をして危険感を抱かせるに足りるものをいうものと解せられるところ(最高裁判所昭和四五年一二月三日第一小法廷決定、刑集二四巻一三号一七〇七頁参照)、既に説示したような状況のもとで、革マル派を迎撃し共同して危害を加える目的で前記器物を準備して集合した場合には、これが社会通念上人をして危険感を抱かせるに十分であると認められるから、この点に関する所論も採用できない。

三、所論は、本件において被告人長谷川は杉並革新連盟の代表者であり、連盟の物資の共同購入や杉並区会議員としての活動のため同事務所を本拠としてはいても、同事務所の警備は全く反戦青年委員会のメンバーに委ねられており、同被告人において右警備を分担することはなかつたのであるから、偶々同事務所にいたとしても共同加害の目的はなく、集合したものでもないのに、原判決が同被告人についても本件犯罪の成立を認めたのは重大な事実の誤認である、というのである。

関係証拠によれば、右事務所の警備は従前から地区反戦青年委員会が担当し、連盟の事務局員は物資の共同購入等の活動を含む本来の事務に専念することになつていたことは認められるが、同事務所は一階が六畳、四畳半、小倉庫及び台所、二階も同程度の広さの総建坪三一・二五坪の建物で、反戦青年委員会のメンバーが待機したり食事したりする際には階下で連盟事務局の者達との交流もあり、ことに被告人長谷川は、同連盟代表者として同事務所に対する革マル派の襲撃には利害関係が深く、事務所の警備防衛についての情報にも詳しかつたと認められ、原審証人常盤学、同鈴木春義の各原審公判調書中の供述記載から明らかなように、被告人長谷川は本件犯行によつて現行犯逮捕された際、当日の責任者であつた中村照市警部に不当逮捕だと抗議したが、逮捕した鈴木春義巡査部長や居合わせた常盤学警部補から、区議会議員で特別公務員でもあるのに事務所内に多数の石塊や兇器を置いているのはひど過ぎるではないかと反論され、これに対し、自分も革マルにやられたことがあり、襲撃に来た場合に反撃するためにやむを得ないのだとの趣旨のことを述べているのであつて、以上によれば同被告人も積極的に被告人小山、同山岸ら反戦青年委員会のメンバーで事務所防衛に当つていた者と共同して革マル派の者に危害を加える目的で集合していたことは明白であるから、原判決には所論のような違法はない。

その他所論が縷々述べるところにつき検討しても原判決の本件犯罪事実についての認定には何らの事実誤認はないから所論は採用できない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用につき同法一八一条一項本文、一八二条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小松正富 裁判官 千葉和郎 裁判官 鈴木勝利)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例